魔除けの布グリンシン, 世界のお守り
インドネシアのバリ島には、
病魔を寄せ付けない魔除けの布と呼ばれる
グリンシンという布があります。
グリンシンは、日本で言うところの
絣(かすり)のような布です。
あらかじめ染め分けした経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を
織り込んで模様を作っていきます。
この手法は、ダブルイカット技法と呼ばれる手法で、
とても手間のかかることで有名な織物の技法です。
ダブルイカット技法の技術は、
世界で、日本、インド、そして、インドネシアのトゥガナン村のみが持っている技術で、
トゥガナン村のダブルイカット技法で織られる布がグリンシンと呼ばれています。
グリンシンは糸を染めるのにも、4ヶ月おきの染めを10回以上繰り返し、
染め終わった糸を、数年かけて織り上げるという、完成までにとてつもない時間を要します。
また、織る技術は高度なもので限られた職人さんしか作ることが出来ない貴重な布なのです。
グリンシンに織り込まれる模様は、作る家によって異なります、
それぞれの家に伝わる模様が決まっており、
グリンシンの模様を見れば、どの家で作られたものかも分かります。
焦げ茶色、赤色、黒色を使って、市松模様や花の形のような模様を織り込んだものが多く、
模様の輪郭に歪みがないほど、腕のいい職人が織ったグリンシンといえます。
これだけ手間ひまがかかっているので、
高価な品物となっていますが、グリンシンを求めて村を訪れる人は大勢います。
トゥガナン村はインドネシアのバリ島の東部に位置する小さな村です。
もともとバリ島はインドネシアに統合されるまでは、
ひとつの王国であり独自の文化を持っていました。
バリ王国独自の文化を頑なに守り続けた村のひとつがトゥガナン村です。
村の文化を守ろうとしたため、部外者の排斥意識は強く、
村人同士以外の結婚は認めないほどでした。
もし、村人以外の者と結婚したら、その者は村を去らなければならなかったのです。
トゥガナン村の人々の強い意志により、守られてきた文化のひとつが、
手間隙かけて作られるグリンシンなのです。
グリンシンは、病気や悪霊を意味する"グリン"と、無しを意味する"シン"を付けた名前となっており、
その名のとおり、あらゆる病魔から人々を守る魔除けの織物とされています。
グリンシンで作られた衣装を身につけていれば、病魔が寄り付かず、病気にならないのです。
トゥガナン村では、古くから人類の創造主としてヒンドゥー教の神であるインドラを崇めてきました。
グリンシンを作る作業工程は長時間、何度も繰り返される単調な作業の積み重ねです、
その作業の間も、職人は神インドラへ祈りを捧げ続けているのです、
その祈りが強い霊力となってグリンシンに宿り、身に付ける人に病魔を寄せ付けないと云われています。
より長い年月をかけて織られたグリンシンほど霊力は強く、
強い霊力を持つグリンシンは病気を治す力をも持っていると云われています。
トゥガナンの村では、小さい子供が病気を患うと、
強い霊力を持つ古いグリンシンの布を浸した水を子供に飲ませます。
牛や豚や鶏などの家畜が病気になった時も、グリンシンを浸した水を餌に混ぜて食べさせます。
トゥガナン村でお祭りや儀式が行われる時は、
女性達は皆、正装としてグリンシンの民族衣装を身に纏います。